
本作の中心作品は、私が想像したうさぎの環世界を6枚の正方形の銅版で表現し、それらを立方体の展開図の構図で印刷した銅版画と、銅版をキューブ状に組み立てたオブジェです。ここで提示されるうさぎの環世界は銅版のキューブ内にあるはずですが、鑑賞者はキューブを展開して印刷された銅版画からその中の世界を想像するしかありません。この構造は、星の配置を左右反転させて球体に描写した天球儀とも一致するでしょう。それぞれの絵柄は、うさぎの天敵である蛇や鳥を、それぞれの住処である草原や空に融合しつつ抽象化させたイメージとなっています。うさぎは視野が広いものの視力が高いわけではないという知識から、鮮明なイメージを避けるべく、エッチングによる点描やアクアチントといった銅版画技法による色面での描写を積極的に取り入れて制作を進めました。
《新身訓練:I want to see my back.》は、展示台中央に展示された銅版キューブの周りを回りながら、練習問題作品や壁面の銅版画作品を眺めるような展示構成となっています。まず、立方体の展開図の配置で印刷された11種類の銅版画が壁面に縦位置で一列横並びに展示されています。そして銅版画の中央正面に直径1.2mほどの円形の展示台を置き、展示台中央に銅版キューブとうさぎの剥製を設置します。このキューブと剥製を取り囲むように練習問題であるプロトタイプたちが並びます。
これらの作品群を眺めることによって、それぞれの連関が動きはじめ、鑑賞者がうさぎへ侵入していくことを試みます。重要な主題は〈うさぎが知覚する世界はいかに想像可能か〉ということであり、〈うさぎが知覚する世界はどういうものか〉ではありません。そのため、本作の狙いは、うさぎの環世界をキューブに閉じ込められた不可視なものとして展示し、銅版画や練習問題作品をインターフェースにその中身を〈想像〉させるところにあります。このとき、うさぎの環世界シークエンスが複合的な縮減模型のようなものとして鑑賞者の中に立ち現れることでしょう。

