2023-|銅版画・ミクストメディア
去年脊椎側弯症の手術をした私の体には背骨にそって約40cmの手術創が残っています。術後はその傷跡が膿んだりしていないか、背中にぶつかりそうなものはないかなど、後ろが気になる日々を過ごしていました。そんな中、うさぎは視野が360度あるらしいと知りました。うさぎといえば、術前に通りかかった白兎神社が現代医療発祥の地とのことでお参りし、お守りを入院先に持って行っていたのです! それらの出来事が自分の中で繋がっていくにつれ、うさぎという存在に羨望・エンパシー・運命的なものを感じ始めたのでした。
私はこれまで、漫画をはじめとする様々なメディアを用いて、自分と異なる身体を持つ者が見ている世界について思索してきました。それは、中学生の時に脊椎側弯症と診断され、自身の身体に異形性を感じてきたことに由来するのだと思います。胃液の分泌を自分の意思で制御できないように、知らず知らずの内に脊椎の形が変形したことは、私に身体と意識は決して渾然一体ではないことを強く印象付けたのでした。そして身体を離脱可能な「からだ」と考え、自分と異なる身体を想像することへの興味へつながったのです。
ユクスキュル『生物から見た世界』の、クリサートによる様々な動物が見ている世界の図版はどれも人間が想像しやすいようヒューマナイズされています。私は彼らのように他者が知覚する世界への関心に近づきながらも、クリサートの図版のように他者の見る世界そのものを提示する方法とは異なるアプローチを考えています。つまり他者の知覚の仕方をいかに想像させるかという「触媒」としての機能について検討していきたいのです。今回は銅版画を用いて、「うさぎが知覚する世界はいかに想像可能か」について思索しました。
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